六甲山で、アートな散歩をしてみませんか?
横浜と同じ港町ですが、海だけでなく山も楽しめるのが神戸のいいところ。その六甲山でアートを見ながら散歩ができるイベントが開かれています。今年で10回目になる「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019」を見てきました。
まずは六甲ケーブルに乗って山頂を目指します。このケーブルカー自体もかわいいのですが、そこにもちゃっかりアートが乗車してます。ケーブルカーの形をしたオブジェは大石麻央さんの作品。ケーブルカーもケーブルカーに乗ってみたい、ということで作られたアートなのだとか。
六甲山上駅は近代化産業遺産にも指定されているレトロモダンな駅舎。観光ポスターやコインロッカーがある普通の駅に見えますが、よーく見るとあちこちに木の葉や実のようなものが。アーティスト、岩谷雪子さんが六甲山に自生している植物から採取したものです。自然のものが自然界ではあり得ない形に配置されていて、人間と自然の微妙な距離感を思わせます。
「都市は瓦礫の上に作られている」と言うのは建築家、本間智美とアーティスト、鈴木泰人のユニット「OBI」です。災害や紛争がなくても、歴史のある土地なら地面を掘ると昔の家や道具の破片が出てくるのはよくあること。彼らは神戸の町の人に持ち寄ってもらった、リフォームなどで出た廃材をひとつずつ丁寧に並べて片側にだけ、鮮やかなピンク色を塗りました。捨てられるはずのものが目を射るような鮮烈な色をまとって、都市のエネルギーを感じさせます。
1986年に完成した「風の教会」は安藤忠雄の設計。通常非公開ですが、この芸術祭の期間中は特別に榎忠さんの作品を見ることができます。まるで蝋燭が溶けたような形のオブジェは、教会に信者が供えていく蝋燭を思わせます。この作品は以前、高野山総本山剛峯寺で展示されたこともあるそう。宗教には普遍的なものがあるのかも、と思いました。
地面に突然現れた裂け目はYOSHIHIRO MIKAMI + HAJIME YOSHIDAによる「私が生まれました」という作品。プロダクトデザイナーと建築家のユニットです。中には階段が作られていて、作家がいる場合は中に入ることができます。形も色も人工的なものが地面を切り裂いていくような、ドキッとさせられるアートです。
六甲有馬ロープウェーの六甲山頂駅には今使われている駅のほかに使用されていないホームがあります。そこに、大﨑のぶゆきさんが昔の観光パンフレットをもとにしたアートを作りました。上の面はパンフレットの表紙、側面には昔の楽しそうな写真があしらわれています。ホームに止まっているロープウェーの車両には小ぶりの平面作品が。これは水彩絵の具で描いた絵を水にいれてにじませ、さらにそれをインスタントフィルムで撮影したもの。記憶がおぼろげになったり、また思い出したりといった様子を現わしています。
皆さんの実家にも昔、こんな毛布がありませんでしたか? 今見るとくどいぐらいの花柄の毛布がアートになっています。これは江頭誠さんの作品。写真の温室のほかにも、衝立や噴水などが花柄の毛布で覆われたようになっています。奇しくもこの作品があるのは秋バラが咲くバラ園。本物の花とは違和感のある作品が景色を変えます。
「六甲高山植物園」は高山植物など寒冷地の植物や六甲山に自生する植物を栽培する施設。植物どうしの関係性や、それぞれの種が好む環境をより詳しく知ることができます。ここにもいくつかアートが置かれているのですが、その一つが伊藤存が作った“美術館”。といっても、“建物”には壁も天井もなく、細い柱しかありません。そこにかかっているのは児玉多歌緒さんという画家のスケッチ帳からの複製と、伊藤さん自身のドローイングや立体作品です。児玉さんが描いた六甲山の絵を見ながら六甲山を歩く。詩を読みながら絵を見て、山を歩くような体験ができます。
「六甲オルゴールミュージアム」の庭で、野外での公開制作という難題にチャレンジしているのは國久真有さん。彼女は自分の体を中心にキャンバスに向かって大きな半円を描き、その曲線を重ねていくことで画面を構成していきます。「私は円を持っている」、國久さんはそう感じたそう。「画面の中で心地よく泳げる」とも言います。
この「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019」に参加しているのはこのほかに藤本由紀夫、高橋匡太、宇野亞喜良、浅野忠信ら42組。会期は11月24日までです。六甲山はもともと有馬温泉も近く、神戸港を見下ろす眺望スポットやレストランも充実した観光地。まる1日、または1泊2日で秋の神戸を満喫するのがお薦めです。